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あらすじ「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
内気な9歳の男の子オスカーは9.11のテロによりで大好きな父親を亡くした1年後、クローゼットの父の遺品の中から謎の鍵を見つける。最悪の日である事件の日以来、亡くなった父との距離を感じていたオスカーは見つけた鍵の鍵穴とその持ち主を探すため、ニューヨーク中を駆け回るお話。
考察(ネタバレ注意)
映画の始まり方
今生きている人は人類史上の全死者数より多い
死んだ人の数は増えていくだからいつか、人を埋める場所がなくなる
だったら、地下に死者のための世界を作ったらどうだろう。
というオスカーの台詞で映画は始まります。私は主人公が語るナレーション映画が安易に大好きなので、この場面で一気に引き込まれました。
オスカーという子について
医師にアスペルガー症候群ではないと診断されたものの、賢く大人びていて人前に出ることが苦手なオスカー。そんなオスカーを父トーマスは、たくさんの人と話してほしいという思いで、「かつて消滅したニューヨーク第6区の調査探検」という遊びの中で街行く人に話しかけさせていたりしました。
このお父さんとオスカーの遊びが私にはかなりツボで、そのうちのひとつが興味があることの前に「アマチュア」をつけるというものなのですが、作中ではアマチュア昆虫学者、アマチュア親仏者、アマチュア考古学者、アマチュアコンピューターコンサルタント、アマチュア平和主義者、アマチュア発明家と自らを名乗り、名刺まで作っています。調査探検のときにこの名刺を活用していたようです。
もう一つは「矛盾語合戦」正式には撞着語法(英:oxymoron)というのだそう。
”無を考えろ”
”オリジナル・コピー”
”学生教師”
”液体ガス”
”偶然の故意”
などの矛盾した言葉を言い合う遊びなのですが、聞いていてとても面白かったのでいつか探してみようと思います。
映画の中ではお母さんとオスカーとの馴れ合いは表現されておらず、オスカーとお父さんがじゃれ合う様子を眺めているだけでした。大分あからさまかな、とも思いましたが、オスカーとお母さんそれぞれが父・パートナーの死に直面して乗り越え絆を深めるという大まかな流れがあるので、そのためでしょう。
失声症?謎の間借り人
序盤でオスカーがガラクタ箱の中から古いフィルムを見つけた時に、「パパのパパってどんな顔?」と尋ねますが、お父さんは見当もつかないな、ドレスデンで生まれてつらい経験をし、家族を置いて家を出たことしか知らない。」と答えています。
この場面での会話を覚えていると、後に出てくる、お向かいに住んでいるおばあちゃんの部屋の間借り人が誰だかは簡単に分かる思いますが…。おばあちゃんも絶対に話しかけてはいけないよ、とか不思議なことを言っていたし、オスカー自身もうすうす感じていたようです。お父さんと同じ首の傾げ方ですね。ここまででかなりヒントが出ていました。(顔も明らかにドイツ系じゃない?、と思ったらスウェーデンの俳優でした。シャッターアイランドにも出演しています。)私は初めてこの映画を見た時には気づきませんでした。おじいさんの声が出ない原因は、心的ショックによるものだそうです。
オスカーはクローゼットの中から見つけた謎の鍵を、この間借り人と一緒に探すことになります。オスカーが訪ねた人々は、皆自分の話をしたがった、と言っていて、人間って結局そうなんだよなーと思います。きっと誰もが、心に抱えている聞いてほしいストーリーが1つや2つあるんじゃないかな。
登場人物の心情描写が完璧だった
さて、事件の日に家に帰ったオスカーは留守電を聞いた後、寝室のベッドの下に隠れてしまいます。お母さんにお父さんから電話は?と聞かれオスカーはなかったと嘘をつきます。実はオスカーが帰宅した後も電話は鳴り続けていて、オスカーは留守電を通じて父親のいるビルが崩壊し、崩れる瞬間の父親の声を聞いています。罪悪感のために誰にも言えず、物語の終盤で鍵の持ち主を見つけた時に、電話のことについて誰にも言えなかったことを「許してくれる?」と問いかけました。
この映画のすごく良いポイントは、登場人物の心情がリアルに描かれていることだと思います。こんな究極の状況の時、オスカーが嘘をついちゃうのも無理ないな、とか...。だからキャラクターの気持ちを理解することができ共感します。イヤなキャラクターが全く出てこないんです。胸くその悪くならない映画はとても好みなのでこれは良い点でした。
タイトル「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」について
鍵探しを初めてオスカーがパニックになるシーンで、目まぐるしいカメラワークとパニックになったオスカーの声。この映画の題名である「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というのは鍵探しをしたオスカーの感想ではないかと思います。
1件目のアビーブラックの家に入ろうとオスカーは”I’m extremely thirsty”と言ったことからオスカーの発言であることが想像できるのと、ものすごくうるさくてというのはオスカーをパニックにさせる街の騒音等でしょう。ありえないほど近い、というのは鍵の持ち主ですかね。数百件の家を訪れたにもかかわらず、結局、持ち主は1件目の家の人物でした。
総評
主演を務めるトム・ハンクスやサンドラ・ブロックの演技が最高だったのは言うまでもなく、何より驚くのはオスカー役を演じたトーマス・ホーンは演技経験がほとんどないということ。とても堂々としていて、経験が少ないことを微塵も感じさせない演技でした。
この映画において何よりも評価したいのが、登場人物の心情描写を丁寧にしているということ。9.11という繊細な内容でありながらも、犠牲になった人やその家族をリスペクトしていなければここまで丁寧には描けなかったのではないでしょうか。もちろん、役者人の演技の賜物でもありますが。
9歳で父親をテロで亡くした男の子、最愛のパートナーを亡くした女性、家族を置いて家を出た夫を許す女性、奮闘する孫の力になろうとするおじいさんの実の子を失った悲しみ、オスカーが来ると聞いて慰めようとする人々、夫に家を出ていかれた女性、父親からの鍵を探す男性。オスカーだけではなく皆それぞれに人生のドラマがあることが想像できました。幅広い人に好かれる映画だと思います。
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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (字幕版)