映画

映画「オンディーヌ 海辺の恋人」の考察【ネタバレ注意】

限界OL Kemuri
限界OL Kemuri
『オンディーヌ 海辺の恋人』を観ました。
評価:

苦手なファンタジー要素はあったものの、踏み込んだところにはシビアな現実が描かれていたのがプラスに評価できた。

オンディーヌ 海辺の恋人のあらすじ

アイルランドの田舎で漁師をしているシラキュースはある日美しい女性を網で引き上げる。彼女はオンディーヌと名乗り人魚を自称する。シラキュースは娘と彼女の3人で暮らし始めるが、次第にオンディーヌに惹かれていく。果たしてオンディーヌの正体は伝説の人魚なのか、それとも…。

 

物語の始まり

物語は主人公の男シラキュースが乗る船をひきで撮った映像から始まります。早い段階でオンディーンと名乗る謎の女を釣り上げ、釣り上げられてからもしばらくの間オンディーンが息切れし続けている状況に、トゥーマッチじゃない?「なんだこの映画」とも思いましたが、アイルランドの暗くも美しい情景とオンディーンの正体を知りたい気持ちが相まって見入ってしまうような映画でした。

 

登場人物について

主人公シラキュースについて

シラキュースはアイルランドの海辺の町で漁師をしている。主に釣っているのはロブスターで、地元の漁協に卸して生計を立てている。離婚した妻との間に小学生くらいの娘がいて、放課後や休日に母に代わり面倒を見ている。アル中のため禁酒中禁酒中のシラキュースは本当にこの人アル中なんか?と疑問に思うほどまともに見えた。

アイルランドでは離婚して離れて暮らす子供に定期的に会う権利があって、離婚しつつも家に迎えに行って子供と一緒に過ごすっていうのはよくある話だそう。実際に私がアイルランドで滞在した家でも、週末になると子供たちは2週間おきくらいに父親の家に泊まりに行っていたし。日本では両親が離婚すると片親とはほぼ生き別れのようになる気がするけど、ひょっとしたら日本のような国のほうが珍しいのかもしれない。

元妻は彼氏と一緒に住んでいて、やんちゃな感じ。パブで酔っぱらって娘アニーの電動車いす乗り回す姿はまさにアイルランド人のステレオタイプのようで、お酒が好きだったり、生活は低所得者の暮らしそのままを再現しているようだ。イッチャッテルナーって思いながら、母が車いすでぐるぐる回っているシーンを見てました。

娘 アニーについて

アニーはアルコール中毒の親を持っているとは思えないほどしっかりしていて、聡明な女の子。腎臓が悪く人工透析をしている。車いすで生活をしていて、物語の序盤で施設から電動車いすをもらって喜んでいる。

Curiouser and curiouser“(ますますヘンテコ)が口癖で、父が出会った謎の女性にものすごい興味を持っている。どうやらアニーはオンディーヌがセルキー(アザラシの人魚版?)と思い込んでいる。セルキーっていうのはアイルランドの民話で、アザラシが陸に上がると毛皮を脱いで人間として生活するんだって。

とにかくアニーはオンディーヌがセルキーだと信じてやまなくて、オンディーヌもその話をいい様に利用して、なんとか港町での生活をやり過ごしていく。

シラキュースが学校にアニーを迎えに来た時には、車いすで帰りたいといってシラキュースの走らせる車と並走してゆっくり帰ったシーンはとても良かった。アニーが「欲求不満」という言葉を出したときに、シラキュースはどこでそんな言葉覚えたの?と聞くが、アニーは「私は学校に行ってるもん。パパは学校行ってないでしょ?」と。荒れた両親からは考えられないほどピュアで達観したアニーだけが、この映画で癒されるポイントだった。

ファンタジーと思いきやリアルな結末

一見この映画はおとぎ話をモチーフにしたファンタジー映画だと思われるが、ただのロマンチックな話では終わらない。個人的には現実離れした空想の話は得意ではないので、その点はリアルでよかった。

オンディーヌが歌を歌うと漁がうまくいったり、サーモンが大量に取れたり、んなあほな。ってことが起きたけど、実際に現実世界でも「え、こんなことある?」って偶然が起きたりもするから、そこまでおかしくはないのかな。

シラキュースはオンディーヌが歌う歌を「知らない言葉の歌」と言っていたけど、あれってシガー・ロスの曲なんですか?アニーは知っているようだったけど、シラキュースは映画のクライマックスシーンに至るまで気づかず。

麻薬の運び屋として船に乗っていましたが、結局海上でばれて、麻薬を抱え海に潜る。海中で気を失ったときに麻薬を落としたから、それを探そうと頻繁に水中にもぐっていたんですかね。アニーに泳ぎを教えるために入った水の中で、海藻に包まれた「アザラシの毛皮のコート」を見つけた時のオンディーヌの形相、結構怖かったです。

 

アイルランドは日本より寒い

アイルランドに行く前にまず気候を調べたんだけど、冬は東京とあまり変わらない程度の気温だったので少し油断をした。夏がほぼないようなものだし、気温は同じでも風が本当に冷たかった。夏でも太陽はぬるい程度だし、日陰に行くとゾクっとする様な肌寒さがあるから夏でも薄手の上着は必須。

なのに!オンディーヌが水に入ること入ること・・・。撮影後のインタビューでは「寒かったけど寒く見えないようにした」と答えたオンディーヌ役のアリシア・バックレーダ。オンディーヌがアニーに泳ぎを教えようと水中に入るシーンがあり、水からあがった後のアニーの腕を見ればわかるけど、震えています(笑)

しょうがないよ...寒いもん!映像を見ている限り寒々しいなんて普通思わないじゃないですか。少なくとも私は思わなかったけど、アイルランドの寒さを体験しているから「役者ってすごいな」と感心してしまうほどでした。

 

 

舞台はアイルランドの港町

オンディーヌ 海辺の恋人はアイルランドの南西部にあるBeara Peninsula(ベアラ半島)という場所で撮影されました。アイルランドは平坦で奥行きのある自然なんてないと思い込んでいましたが、吸い込まれるように綺麗な情景でした。

ただアイルランドらしいなと思ったのが、いつも薄暗いグレーの空なんですよね。すごくきれいな自然が目の前にあるのに、どこか重たい雰囲気を感じさせるような。映画の雰囲気やストーリーとマッチしていて良いと思います。

さて、このベアラ半島という場所はアイルランドの有名な港町「ディングル」よりも綺麗だとされています。コークやリムリックからも遠くないので、行く価値はあります。

 

監督・俳優について

監督・脚本はニール・ジョーダン。基本的にはアメリカを拠点として活躍していますが、『ブッチャー・ボーイ』や『プルートで朝食を』はアイルランドを舞台とした作品です。私がこの監督の映画で観たことがあるのは『俺たちは天使じゃない』のみでした。

シラキュースを演じたコリン・ファレルはアイルランドの役者、彼が演じる映画を観るのははじめてかな~と思ったのですが、『フォーン・ブース』という作品を観たことがありました。電話ボックスという密室でのサスペンス?ハラハラ系の映画です。

オンディーヌ役のアリシア・バックレーダは初めて見る女優さんでした。ルーマニア出身なのかな?と思ったのですが、メキシコ出身らしいです。映画撮影後のインタビューを観ましたが、賢そうな人です。

そんなコリン・ファレルも彼女の魅力にやられ、「オンディーヌ 海辺の恋人」の撮影をきっかけに付き合ったそうです。コリン・ファレルに結婚願望がないことを知り別れることになったそうですが。

ニール・ジョーダン監督のポリシーとして、演技経験のある子役を使わない。だそうですが、アニー役のアリソン・バリアンにも演技経験は全くありませんでした。そう考えると、彼女の醸し出す聡明な雰囲気はもって生まれたものなのか・・・。『ものすごくうるさくてありえないほど近い』の子役も演技経験がありませんでしたが、やはり2人ともどこか大人びた、頭の良さそうなイメージがあります。

 

 

覚えておきたい英語表現

“Curiouser and curiouser.”

ますますヘンテコ」不思議の国のアリスからの引用ですが、アニーの口癖として使われていました。響きがかわいかったので冗談として使ってみたいです。

“Anything strange or wonderful?”

なにか不思議なこととか素敵なことはあった?」学校から帰宅したアニーにシラキュースが聞いた質問。これもかわいい質問だな~と思ったのでメモ。

“That’s a real shite story.”

つまらない話ね」シラキュースのするオンディーヌの話に対してアニーが発する一言。”shite”=”shit”(クソ)ですが、アイルランドやスコットランド、イギリス、オーストラリアでは「シャイト」と発音して言うこともあるそうです。

“You brought me back to life.”

あなたは私を生き返らせた」という意味。bring ~ back to life で生き返らせる、です。